「・・・おはよう、姫君。」

いつものようにヒノエの腕の中で目覚め、ゆっくり目を開ける。
すると最初に目に飛び込んできたのは、ありえない・・・姿。

「・・・望美、先輩?」

「ふふ、オレの姫君はまだ夢の中かな?」

「・・・」

まだ寝ぼけているのだと思って、ごしごしと手の甲で目元を擦ってから、もう一度・・・今度はゆっくり目を開ける。

「どうしたんだい?」

「・・・」

「それにしても毎日毎日怨霊退治なんて、少し退屈だね。」



――― 退屈なんて・・・とんでもない



「・・・」

「たまには刺激的な事でも起きると、少しは退屈しのぎになるんだけど・・・」



――― ヒノエと一緒にいて、刺激にならない事なんてない



欠伸をしながら起き上がって伸びをするヒノエ。
その格好は・・・どう見ても、あたし達の世界でいうセーラー服。
も、もしかして、怨霊の邪気の所為であたしの目がおかしくなってる?

「怨霊退治も望美と朔ちゃんととオレだけなら、もう少し楽しくなるんだけどね。」

「っっ!!」

驚きはこれだけで終わらなかった。
ただのセーラー服だと思っていたのに、立ち上がったヒノエは見事な脚線美を披露している。



――― 早い話、超ミニのセーラー服



「ひ、ひ、ヒノ・・・」

「ん?どうした?」

あまりの変わりように何を言っていいかわからない。
もしかして、将臣先輩が何処かでセーラー服を見つけてきてヒノエに冗談で着せたとか!?
でもそれなら譲くんが絶対に止めてくれるはずだし、九郎さんだって止めるだろう。
それにこっちの世界にセーラー服を扱っている店があるとは思えない!!

「あの・・・」

「おっと、そろそろ朝餉の時間だね。遅れると譲が煩いんだよな。」

その格好で行くの!?

「?当たり前だろう。」



――― 何が当たり前!?



熊野の頭領がそんな格好で出歩いていいの?
だってスカートだよ?
しかも望美先輩と同じくらいのスカート丈で・・・あ、でも足綺麗だからいいかな。
それにヒノエは普段から露出してる部分が多いから大して問題ないかも。
でも・・・スカートの丈が短いのに普通に大股で歩くのはどうかな?

驚きすぎて思考が上手く回らないらしく、自分でも止められないほどおかしな方向へ進んで行く。
いっその事もう一度寝直した方が、これが夢だったというオチになるかもしれない。
そんな風に考え始めたあたしの前に、ヒノエが片膝をついて頬に手を添えた。

「オレの前で他の事を考えるなんて・・・妬けるね。」

「っ!」

「それとも・・・オレを見ていたのかい?」



――― ある意味、間違えていないけど・・・



「そうだね・・・もしがオレと一緒にいたいって言ってくれるなら、お前を腕に抱いてもう一眠りしても構わないよ。」

「!?」

口調はいつものヒノエと全く同じ。
囁く言葉も、いつもと同じ。
でもでも・・・その格好で言われると、なんだか凄く変な感じがするっ!

「ね・・・どうする?」

そっと耳元に囁かれ、どうすればいいか困惑していると、外から穏やかな声が聞こえてきた。

「おはようございます。さん。」

弁慶・・・

「・・・なんだ、あんたかよ。」

「君達が来るのを待っていたんですよ。けれど、いつまで経っても来ないので僕が迎えに来たんです。全く、君は食事の刻限もわからないんですか。」

「食事より姫君との語らいの時間を大切にしているだけさ。」

「では、君はそのまま休んでいて下さい。さん、今朝は譲くんがおむれつを用意してくれたそうですよ。」

「オムレツ?」

さんの好物だと聞きましたが?」

「はい、好きです!」

「それじゃぁ冷めないうちに行きましょう。ヒノエの分は・・・そうだな、折角だから将臣くんにでも食べて貰いましょうか。随分とお腹を空かせていたようですしね。」

「勝手に人の飯やるなよ。」

「折角の食べ物を無駄にする訳にはいきません。」

「残しとけよ。」

「さぁ、どうしましょうか。」

普段であれば2人の会話を聞いているんだけど、今日はそれより先に弁慶に伝えたい事がある。
手早く身支度を整えて、外にいる弁慶の元へ急いだ。

弁慶、あの!!・・・・・・え?」

「おはようございます、さん。」

部屋から飛び出したあたしは・・・弁慶の姿を見て、その場にへたり込んでしまった。



廊下に正座して微笑む弁慶は・・・ヒノエ以上に、衝撃的だった。



普段露出していない腕や足が見えるだけでも違和感があるのに、弁慶が身につけているのも・・・何故かセーラー服。
違う所と言えば、セーラーカラーの部分と胸元のリボンの色が違うだけ。



――― 2人共・・・一体何が・・・



くらりと眩暈がして、座り込んだまま身体の力が抜けて行く。

さん・・・さん?」

「おいっ、あんた何したんだよっ!!」



手を伸ばして支えようとしてくれる弁慶
後ろから抱きかかえてくれるヒノエ

・・・あぁそうか、2人の格好は昔テレビアニメで見た・・・ヒロインの格好にそっくりなんだ。



遠ざかる意識の中、ぼんやりそんな事を考えていた。































・・・さん、・・・さん?」

「ん・・・」

さん、大丈夫ですか?」

頬を軽く叩かれ、目を開ける。

「良かった・・・気がつきましたか。」

「弁慶・・・」

「随分と魘されていたようですけど、気分は・・・」

・・・弁慶っ!!

勢い良く起き上がり、おもむろに衣を掴む。
その手に触れるのは素肌ではなく、いつもの和装の布の手触り。

「いつもと、同じ。」

ポツリと呟き、それでもさっきの光景が夢である事を確かめようと、手を伸ばして弁慶が頭から被っている黒衣を外す。

さん?」

「・・・」

黒衣を横に置いて、じっと弁慶の姿を見つめ、何処かおかしな所がないか隅々まで確認する。
何処も、おかしな所はない
いつもの、いつもと同じ・・・弁慶だ。
急に安堵してホッと胸を撫で下ろすと、弁慶が微笑みながらそっと髪を撫でてくれた。

「どうしたんですか。」

「え?」

「・・・君からこんな風に触れてくれるなんて。」

「あ、あの・・・」

「先程まで、魘されていた君を心配するあまり止まりかけていた鼓動が・・・今は、ほら、君が触れてくれた事でこんなに高鳴っている。」

あたしの手を取ると当たり前のように弁慶の胸に置かれ、今度はあたしの心臓が止まりそうになる。

「べ、弁慶・・・」

「残念だな。今日に限って野営なんて。」

手に伝わる弁慶の鼓動は変わらないのに、自分の心臓の音が・・・周りで鳴いているセミの声よりも大きく聞こえる。

「こんな事なら九郎が言うように、もう少し歩いて宿に泊まれば良かったかな。」

「え・・・」

「そうすれば今夜は君とゆっくり語り合えたのに・・・」

「弁・・・慶・・・?」

髪を撫でていた弁慶の手が頬に添えられ、微笑んでいた弁慶の瞳が僅かに細められゆっくり近づいてくる。
後ろに下がろうにも木に寄りかかっている所為で身動きが取れない。

「・・・さん」

「弁慶・・・」

唇に弁慶の吐息を感じた瞬間、大きな笑い声に驚いてビクッと体を震わせた。

「・・・」

「望美さん、ですね。」

「そ、そう・・・みたいです。」

反射的に目を開けてしまった事により、秀麗な弁慶の顔を至近距離で見ることになってしまい、自然と顔に熱が集まる。
それを見た弁慶の瞳が嬉しそうに細められると、すかさず頬に柔らかな物が触れ、離れていった。

「・・・続きは、また今度二人きりの時に。」

「・・・」

「僕は水を汲んで来ますから、少し待っていて下さいね。」

「・・・は、はい」

「では、行って来ます。」

離れて行く弁慶の背を見送りながら、背後の木に体重を預ける。



――― し、心臓止まるかと思った・・・



数回深呼吸を繰り返して呼吸を整えて、ぐちゃぐちゃになっていた弁慶の黒衣をたたもうと手を伸ばす。
すると、さっき以上に楽しげな笑い声が聞こえてきたので、そちらに耳を傾けた。





はははっ!相変わらず姫君の話は興味深いね。」

「っていうか、野郎で想像すんなよ。キモチ悪ぃ。」

「そもそも人数が合いませんよ、先輩。」

「あ、そうか。でも、そんな感じしない?」

「あーまぁ・・・今まで普通の学生だったヤツが怨霊退治するってトコは似てるけどな。」

「けど、面白いね。望美の世界ではそんな風に姫君達が活躍する物語があるなんて。」

「物語・・・まぁそんなもんか。」

「子供の頃、良く台詞とか真似して遊んだよね。」

「・・・お前だけだろ。」

「えー、将臣くんと譲くんともやったじゃない!」

「兄さんが悪人の役をやっていたのは覚えてます。」

「あ〜・・・そうだったか?」

「今考えると決め台詞がオカシイけど、あの時は一生懸命真似してたんだよね。」

「へぇ、どんな台詞なんだい?」

「あのね・・・」





・・・一体先輩達は何の話をしてるんだろう?

何となく話の内容が気になって、たたみ終えた黒衣を手に持つと、なだらかな斜面の上にいる先輩達の所へ行こうと立ち上がる。





「違う違う!」

「え・・・こうかい?」

「おま・・・マジで覚える気か?」

「・・・先輩良く覚えてますね。」

「男の子が変身ポーズ覚えるのと一緒だよ。うん、そうそう!それで決め台詞が・・・」



――― 決め台詞?



望美先輩の言葉に首を傾げながら、ようやく皆のいる場所に辿りついた。

「望美せんぱ・・・」

そして声をかけかけたあたしは・・・目の前の光景に、言葉をなくした。



「月に変わってお仕置きするぜ」



そういいながら、昔見たアニメのヒロインと同じようにポーズを決めているヒノエ。

「だーっっはっはっはっ!!」

あははは!凄いっ!!ヒノエくん完璧っ!!」

ぷっ・・・

それを見てお腹を抱えて笑っている望美先輩と将臣先輩。
そして遠慮がちに肩を震わせて笑っている譲くん。

「・・・望美の笑顔は嬉しいけど、おまえらが笑うのは何か腹立つな。」

「って、普通マジでやらねぇぞ?」

「姫君のお望みとあらば、それを叶えるのが男の使命だろ。」



夢の中のヒノエの姿が・・・ふっと脳裏に浮かんだ瞬間、視界がかすむ。



「あ、ちゃん起きたの・・・あ、あれ・・・?

「お、起きたか・・・っておい!

「危ないっ、さん!」

っ!!



貧血のように意識が遠ざかっていく中、駆け寄ってくるヒノエの背後に・・・真昼の三日月が、輝いていた。





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朱雀阿弥陀〜南天老陽 火気の宴〜 NO:115 「美少年?戦士・セーラースザク」
「阿弥陀に参加するぜ」と、遙か3朱雀への愛のみを抱えて勢い良く申し込んで頂いたお題がこちらです。
・・・ある意味、どんな拷問だよと思ったのは言うまでもありません。
が、しかし!サイト初めて今年で4年目!
ずっと、ず〜っと下手なりに夢小説というお砂糖を交えた話を書き続けたんだ!
ギャグだけでまとめちゃ意味がないだろう!!と、思い頑張って頑張って頑張って・・・最後はヒノエと弁慶に頭を下げたくなりました。
土下座して謝るよ、ごめん・・・弁慶!!とヒノエ←あれ?

本当は何パターンか書こうと思ったんですが、いやはや・・・書くたびに心臓がキリキリ痛みましてね(苦笑)
これで・・・許してっっ!
一番書きたかったのはヒノエに某方の決めポーズと共に「月に代わってお仕置きするぜ」の所です。
もぉね、笑うしかないですよね?(笑)
いっそお仕置きして下さい。今ならちゃんとお仕置き受けますから(苦笑)
苦情・・・は出ると思いますが、出来れば心広く受け止めてやって下さい。